鴨とアヒルのコインロッカー
読書動機
重力ピエロに引き続き2作品目の伊坂幸太郎先生作品。
伊坂作品の中でおすすめを聞いたところ、ミステリー好きなら読むべきと言われて購入。
感想
読み終わって1番初めに思ったのは、タイトルの付け方が秀逸。
最後まで読み終わってようやく意味のわかる表題になっているんだと理解できた。
話は現在と過去をそれぞれで進行していく。現代では既に過去のストーリーが起きた後の世界であり、出てくる登場人物は一定程度同じであるので、過去のストーリーが結局どうなったか、というのはとても気になっていた。
ただしこの同一の時間軸が最終的にどんでん返しのきっかけになる。
どんでん返し系の小説を読んでいると、まんまと騙された!という驚きとちょっとうれしい気持ちと、同時にどれだけ自分が固定観念を持っているのかがよくわかる。
作中のアヒルと鴨という表現は、「外国人」らしい所作で人を判断する日本人の差別的な面が象徴されているようで、心が痛くなった。
重力ピエロでも思ったが、著者の作品は、登場人物の感情がとても落ち着いている(ように見える)ので、読んでいて臨場感のようなものはとても少ない。
だがその分読み手の感情が重ねやすく、どの登場人物にも共感のようなものが芽生える。(ペット殺しの犯人の様な登場人物は別だけど・・・)
個性的な世界観というか文体であると思う。
また結末もあまり起伏がないので、後は読み手の判断に任せられるような作品であった。
今後につながること(まとめ的なもの)
2作品読んでみて、独特の伊坂ワールドを体験することができて良かったので、また別の作品も読んでみたいと思っている。
ただ伊坂先生も、村上春樹先生同じで、ある程度文学や哲学の教養を持って読むとまた印象や理解が変わってくるのかなと感じている。
作品を楽しむために、そういった知識も併せて勉強していきたいと思った。
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BUTTER
【読書動機】
書店で平積みされていたので気になった。実際の事件を題材にした小説という内容にひかれ購入。
【感想】
読み終えた際の感想は、色んな角度から感想が湧き出て、とても一言では表現できない。ということだ。
その中でもやはり一番刺さったのは”女性”性の世間評価と、それに振り回される女性についてだった。
働くにしても、家庭に入るにしても、それぞれ表と裏で「女性としての」正解を要求され、息苦しくなる。そういった他者の視線の為に、自分を肯定することが難しい主人公の葛藤がリアルに伝わってくる。
そして主人公には、最初「カジマナ」はそういった枷を解き放った人物ように見えるのであったし、自分の女性像や女性らしさ、また欲に対する従順さを迷いなくぶつけてくる。
主人公が学生時代から自分の「役割」を果たすために、ある種禁欲的に踏み入れなかった食の領域を通して、自由な生き方をしているようにふるまい、翻弄する。
カジマナの宿題をこなしているときの主人公は、とても危うく思えたし、どんどんのまれていっている感覚が、恐ろしかった。
最終的に取材等を通じてカジマナの等身大の姿を知ることで、彼女の罠(だったのか、裏なくああいったことができる人物であったのか不明だったけど)から逃れて自分の本当にしたいことに気づくことができた、というところはスカッとした。
また親友の危うさにもはらはらしながらも、それぞれがかすかな答えを見つけられたことがうれしい最後だった。
【まとめ的なもの】
女性の他者や世間からの無言の要求や価値付け、そういったものは表だって言えない世の中になっているが、そいうった「空気」は根強く、いまだに意識をするしないにかかわらず、その型にはまろうと一生懸命になっている女性は本当に多い。(それはもちろん男性にもいえることだが)
そしてその社会の中で「自分らしさとは」という問いに気づいてしまうと一気に息苦しくなるのだと思う。
昨今ジェンダーを意識しようとする声が高まる中、いまだにこの国では昔からの「常識」が根を張っていると感じる。
この作品は是非色んな方にお薦めしたいと思った。
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海と毒薬
読書動機
実家の本棚に置いてあった本だった。
著者の名前も聞いたことがあるし、重そうなテーマであったため、基本的には明るいテーマかミステリーが好きな私は読まないジャンルということもあり、久々にこういう雰囲気の本を読んでみようと思った。
感想
初めはとある町に越してきた住人の視点から始まる。
その町にある診療所の医者は、腕は良いが変人として有名であった、というところで、そこまでは日常の一部である。しかし、その医者の過去を少しずつ知っていき、そのあたりから、とある事件の関係者視点での話がスタートする。
今の日本ではありえない非人道的な事件であるが、実際の事件であったというところに衝撃とリアリティがある。
ただただ置かれた環境は人間をいかようにもしてしまうのだと恐怖を覚えた。
戦争という過酷な環境は、じわじわと他者や命を侵食していく毒薬のようだ。
その毒に侵された人間は、心の痛覚が麻痺していくように感じた。
そして海の描かれ方も、暗く深い、そして波音によって存在を示す、なにかの比喩のようだった。
実際に海も毒薬も何かを暗喩しているのだろうが、答えははっきりとしていない(様に感じた。)。読んだ人によって捉え方が違うのではないかと思うので、ぜひ他の人の感想も聞いてみたい。
今後につながること(まとめ的なもの)
やっぱり戦争の話は苦手だ。しかしそれが日常であった人々がいて、実際の事件とリンクしているというのはリアリティをもって受け止めることの助けとなった。
現代日本で生きていると、生き死にがどこか遠くの特別な存在になっている気がするが、死とは、とても唐突で絶対的な存在であり、決して逃れることができない。
命は対等で、どんな人も他人に奪われていいものではない。
同種同士で当たり前のこのルールが破綻しない世界が幸せなのだと改めて認識した。
たまには自分の読まないジャンルに手を出すと、新しい気づきや学びがあると改めて感じた。
今後も節操なく色んなテーマの本を読んでいきたい。
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ダ・ヴィンチ・コード
読書動機
以前、話題になっていたのはよく知っていたし、映画にもなった作品である。
読むきっかけといえば、ただ、今まで読む機会がなかったという単純な理由とともに、自分の好きな宗教の世界と関連があること、またミステリーであること、そして何よりhontoのおすすめ図書だったからである。(これが一番のきっかけ。笑)
あ、念の為記載しておくが、宗教が好きというのは学問的な意味でであり、私にはなんの信仰もない。(いまのところ。)
感想
率直な感想は、さすが話題になるだけのことはありおもしろかった、というものだ。
読んでいて、序盤からグイグイ引き込まれた。
というのも、まず殺人が起こったときの犯人の視点、警察の視点、主人公の視点がそれぞれ描かれ、更にまだ正体が明かされない謎の人物の視点で話が進み、ときに時間軸を同じくしたり、関連性がわかる時がある。
この、ちょっとずつ事件の詳細や謎や真相が見えてくる書き方が、次へ次へと読み勧めたくなるのである。
さらに事件の展開として、主人公とそのパートナーが、警察から逃げながら真相を追う。かなり綱渡りの場面がハラハラさせられ、次の展開が気になってしまう。この進め方が、読者を引き込むし、とても上手いと感じた。
また、事件の謎に関わるキーワードが、ほとんどの人が知っているものばかりで、親しみやすい。そして歴史の謎が解かれることが、現在起こっている事件の謎を解く鍵となり、主人公の学者として追い求めているものも一緒に追っていく、という展開になるのである。
さらに、その中で歴史の雑学も挟まれるので、なおのこと興味が惹かれ、学びにもなる。
今更であるが、主人公は歴史学者であり、事件の陰謀とは無縁の(関連する事項の研究者ではあるが)人物である。その主人公が事件に巻き込まれていくさまも、読者と一緒の視点で読み進めるのにかっているのではないかと思う。
具体的な内容の話はネタバレしかないのでなんとも言い難いが、個人的には犯人はそこまで意外な感じはしなかったことと、祖父の愛の深さに感動をした、とだけ書いておきたい。
今後につながること(まとめ的なもの)
とにかく面白くてあっという間に読んでしまったが、次には著者の別の作品というより、世界史の復習をしたいと強く思った。
(いや、著者の作品も読んでみたい。マジで読んでみたいけど。)
うっすらの世界史の知識でこの本を読むのと、詳しい人が読むのとは、面白さが違うのではないかと思う。
なので、私は次は世界史の本を読む!と心に誓ったし、実際読んだ。(これhttps://twitter.com/TTOCA20/status/1483776452864917507?s=20)
シオン修道会の話とかダ・ヴィンチの話はなかったけど、それはそれでよかった。笑
本をきっかけに、様々な興味が呼び起こされるというのも読書の魅力だ。
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木曜日にはココアを
読書動機
Twitterで見かけることが多く、しかも表紙とタイトル買いという作品。
作者のこともよく知らず、ただ感想に「心が温まる」という雰囲気の事が書いてあったため、最近感動していないこともあり(笑)、読んでみようと手に取った。
感想
短編集でいて、登場人物や世界が繋がっている作品。最後は最初の物語と綿密に関わっていて、喫茶店のお客さんの行動の意味や気持ちを知ることができて感動した。
ここに出てくる登場人物はだれも悪意を持っていない。誰もが相手を思いやり、自分の非を嘆き、葛藤して前に進もうとしている。
すれ違うこともあるが、その際はお互いを思ってこそのすれ違い、というちょっぴり切ないがわかりあえた時は最高にハッピーエンドとなる。
特に好きなのは、「聖者の行進」。主人公と自分が重ねられるところが多くて、感情移入してしまった。昔からの嫉妬心なのか憧れなのか、という部分もありつつも、やはり大切な友人として認め合い、伝え合う二人は本当の友人なのだと思う。
すべての作品は、決して壮大な話ではなく、身近なリアルな人間の人生の一片である。
読んだあとは、感動と幸せを分けてもらった気持ちになった。
そして登場人物たちに感化されて優しい気持ちになる。
とても素敵な本だった。
今後につながること(まとめ的なもの)
本作を読んで、著者が大層気に入ってしまい、著者の作品をたくさん読みたいと思っている。
ちょっと調べただけでも結構な作品があるので、少しづつ読破していきたいし、こんなにも読みたい本が増えたことが嬉しい。
もっと読んで、好きな作家さんの一人として言えるようになりたいと思った。
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むかしむかしあるところに、死体がありました。
読書動機
正直に言うと「タイトルに惹かれた」。これだけである。
表紙の絵もキャッチーだ。見たことのある昔話のキャラクターが、死体を囲んで驚いている。
ギャグテイストなのか、はたまた物語のオマージュなのか、興味をそそられるタイトルと表紙であった。
近くに赤ずきんちゃんの表紙の「赤ずきん、旅の途中で死体と出会う。」もあったが、シリーズ第一作目とのことで当書を購入してみた。
感想
読んでみると、キャラクターや登場する道具はそのままで、話がミステリーになっていくものであった。ギャグではなく、本格ミステリーである。
だいたい話の流れも原作に近いものの、(キャラクターが原作の時間を体験したあとだったりその流れだったり)そこで殺人事件が起こるので、登場する人間以外の犬や鶴、亀、鬼や不思議道具(表現がいまいち・・・打ち出の小槌などのことを言いたいのです)を推理に組み込む作りになっている。
これがとても新鮮に感じた。
犯人たちには鉄壁のアリバイがまずある。それを不思議な道具を使ってアリバイを崩したり、はじめの話がよく読むと伏線になっていたりと、昔話の世界観をうまく活用してトリックが成り立つのがおもしろかった。
また、全部で5本の話が載っているが、すべて物語の構成や進み方が異なるので、読んでいて飽きが来ない。個人的には、2作品目の花咲死者伝言で(これはうっすら犯人に気づいてしまったものの)犯行動機が生々しく残酷性を感じたのと、最後の絶海の鬼ヶ島が、ホラー要素もあってぞくぞくした。
考えながら読むとちゃんと伏線や引っかかりに気付ける作りになっているので、推理しながら読むのも面白いと思う。
どうでもいいが、鬼たちが自分たちのことを1頭って数えるのが妙におかしかった。笑
今後につながること(まとめ的なもの)
積読があまりにも多いのでいつになるかは不明だが、続編を読んでみたいと思っている。
日本昔話的なものも良かったが、赤ずきんの方はどうやら西洋の童話を元にした作品らしく、かなり期待が高まる。
また、もう一作、続編も発売されているようで、こんなにも読みたいシリーズが刊行されていて楽しみがあるのが嬉しい。
ただのミステリーだけではなく、皆に共通の昔話というツールを使うことで、納得感を共有できるという斬新な発想のミステリーであった。
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今日は、自分を甘やかす
読書動機
正直、最近疲れているのだと思う。
一人でいると今後の不安や人間関係の憂鬱に考え事が乗っ取られてしまう。些細な出来事に感じやすくなり、すぐに自分の不安に結びつけて、また思考が暗くなる。
この状態を、私は勝手に「心が柔らかい状態」と呼んでいる。
柔らかいので、出来事を受け止めるときに、その形や角に痛い思いをする感じ。普段は気にしない部分なのに、感じやすいため勝手に痛がっているだけなのだと思うのだけど。
そんな状態、定期的にありませんかね?笑
そんなときは、優しいセラピー本を読む・・・聴きたいと思うのである。
オーディオブックの中に、1月の聴き放題タイトルとしてパッ止めに入ったのがこの本であった。タイトルも、帯の内容も、今の心が柔らかい状態にばっちりであった。
感想
この本は、タイトルの通り「もっと自分を認めてあげて、優しくしてあげていい」というメッセージが込められている。
私が現在の状況も踏まえ、一番効いた部分はChapter4自分にやさしく、人にやさしく
である。※紙の本とは目次の表記が違うかもしれない。
著者に相談する人の相談内容は、みんな私の思っていることだったりして、こんなに合致することがあるのかと思ったぐらいである。
(例えば「人に嫌われるのが怖いんです」など。)
それに対して、著者の考えが示されるのである。それは、一見よく聞く(といっても私がメンタル弱めなので答えを探してググったりそういった本を読んだりするからかも)内容ではあるが、その表現や事例が面白い。
特に愚痴を言うことに対しての考え方で「アイドルもトイレに行って汚いものを出す。それによってキレイでいられる。それと同じで、汚いものを溜め込みすぎず、気のおけない友人に話すことはしてもいい」(引用ではない。念の為)といった話があった。
妙に納得した。
嫌な気分は生きている中で必ず向き合うことになる。社会人になって、愚痴を言わないようにと意識してきたが、たまに出すものを出さないとやはり苦しいもの。
それこそ気のおけない友人に愚痴を話すと気持ちが切り替えられることに対して、今まで罪悪感を持っていたが、必要なことだと割り切ってみようと思えた。
また、「嫌な瞬間を想像力で乗り越える」部分では、著者のお姉さんの発想の転換の話が書いてあった。嫌な人や事に対し、実はこうだったんじゃないかといった想像で、出来事に物語を与え、許したり納得できるものにしてしまうという。
そういった切り替えや発想ができることは本当に素敵だと思った。
多分お姉さんは、もともとできた、というよりは、その発想を意識していったことで転換ができるようになるのだと思うので、自分も実践してみたいと思えた。
今後につながること(まとめ的なもの)
この本は、心が柔らかいときに読むと、忘れていた自分や他人、日々起こる出来事を大切にする気持ちを思い出させてくれる一冊だった。
勝手な感想ではあるが、行き詰まったり疲弊したときに読むべき、自分の大切に仕方の総まとめのような本である。
私はよく自身をいじめてしまい、他人軸で物事を考えて混乱することが多いが、そんなときに、ちょっと立ち止まって当書を読んでみるといいのかもしれないと思えた。
エッセイというジャンルは、読みやすく手にとりやすいというのも魅力である。
著者の実践している甘やかし方を真似して、私も本当は大切な自分を甘やかす時間を取りたいと思っている。
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